一皮むけば
一皮むけばこんなものなのか、と、わたしはまじまじとその人の顔を見る。ふだんは覆い隠されている、すこし違う顔がのぞくと、怖くなる。
力はつよいし、覆いかぶさられると何もできなくなる。それが恋人であっても、あまりの力の差に怯えてしまう。怯えたくなどなくとも。
身を委ねる、身を任せるという言い回しは、間違っていない。なるようにしかならない、されるがままになる、と、よくも悪くも「諦める」一瞬が必ずある。世界中でどれだけの女性が、そうやって「ああ、かなわない」と諦めてきたのか。女にうまれたことと、男にうまれたことの完全な非対称性を実感してきたのか。
あまり考えるとこわくなる。けれど、ほんとうに知らずに、知らないまま暮らすのと、知っているけれど知らないふりをしながら暮らすのには、天と地ほどの差がある。だれもが違う顔をもっていると、ただそれだけのことで、わたしたちは違うのだ、ということに過ぎなくとも。
ああ、この顔だ、わたしはこの顔を知っている、線をこえた、裏側からひきずりだされたような顔を、わたしは、と。