世間並みの幸せなんて無理な話だった

いちばん暗い夜明け前にうたうブログ 走っても走っても私の夜が明けない(椎名林檎に非ず) ※別名義のツイッターアカウントはhttps://mobile.twitter.com/sigure_aki (主に短歌をつくっています)

合わせてはいけない周波数に波長が合う時間に

 夜明け前のあの時間だけは、私の回りの空気もとろけるようにまろやかで、あまやかで、なんの心配もなかった。
 わたしの構成部品(コンポーネント)はモザイク状にほぐれ、崩れて、細かい格子模様のはいった壁に投影される。巨大な質量と引力をもつ海の気配と、ゆらぐ夕焼けのにおい、あの雨の日の土のにおいすら漂うなかで、わたしは、自分自身の影と、彼の気配が交ざりあう幻を視る。

 

 これは陽炎だ。逃げ水だ。なにもかも、うたかたに、手を伸ばした先から消えてしまう。

 

 いつまでも完成しない夜に嫌気が差したわたしは、浴衣をブランケットがわりに眠りにつく。


 ありとあらゆることが彼の記憶を呼び起こす。わたしは過敏になっている。

 

 願わくば、彼の構成部品の原子ひとつぶんだけでも、いまのわたしと共にありますように。もはやこころなど亡くとも。わたしの鼓動がさみしさの波形をつくり、さざなみをたてる間は、せめて。